Nikon(ニコン)SP/日本光学の粋を集めた国産レンジファインダーの最高峰
Nikon SP(ニコンSP)は、すべての国産レンジファインダーのトップに位置するカメラといって差し支えないでしょう。
過去最高の一眼レフカメラを決めるとしたら?
おそらく、Nikon F(ニコンF)をはじめとする、F一桁シリーズに票が集中することと思います。
では、レンジファインダーカメラではどうでしょうか。
中古カメラファンの間ではM型ライカを推す声が強いことと思いますが、国産カメラの中にもダークホースがいました。
それが、この記事で紹介するNikon SP(ニコンSP)。
プロのための最高級機種として、当時の日本光学が持てる技術を結集したカメラです。
レンジファインダーとしてライカやコンタックスと並び讃えられる中古カメラの名機。
いったいどんな魅力があるのか、中古フィルムカメラ専門店サンライズカメラのスタッフが紹介します。
目次
Nikon SP(ニコンSP)
1957年、日本光学(現・ニコン)が送り出した最高級レンジファインダーカメラ。
それがNikon SP(ニコンSP)です。
中古でも非常に人気が高いニコンSP。
まず、その特徴について見ていきましょう。
Nikon SP(ニコンSP)の性能・スペック
形式 | 機械式レンジファインダーカメラ |
シャッター | B、1秒〜1/1000秒 機械式 横走り布幕フォーカルプレーンシャッター (後期型はチタン幕) |
露出計 | なし |
ファインダー倍率 | 等倍(逆ガリレイ式・アルバダ式) |
ファインダー枠 | 逆ガリレイ式:50mm、85mm、105mm、135mm アルバダ式:28mm(全視野)、35mm(ファインダー枠) |
レンズマウント | ニコンSマウント |
巻き上げ | レバー式、1ストローク |
巻き戻し | クランク式 |
発売年 | 1957年、2005年(復刻版) |
最大の特徴:ユニバーサルファインダー
Nikon SP(ニコンSP)を語る上でもっとも大きな特徴。
それはやはり、28mm〜135mmまでのファインダー枠をすべてカバーする、ユニバーサルファインダーだといえるでしょう。
レンジファインダーカメラでは、一眼レフカメラと違って、レンズを交換してもファインダーから見える範囲が変わることはありません。
そのため、ファインダー内の枠(ブライトフレーム)を切り替えたり、対応する焦点距離の枠がカメラにない場合には、外付けファインダーを装着する必要がありました。
その問題に真っ向から取り組んだのが、このニコンSP。
ニコンSPがとった解決策は、いたって明瞭なものでした。
それが、必要な焦点距離のファインダー枠をすべて内蔵してしまう、というもの。
広角は28mmから、望遠は135mmまで。
当時、レンジファインダーカメラで一般的に使用されていたレンズをすべてカバーするものです。
※28mm時は、ファインダー枠ではなく、ファインダー視野全体が撮影範囲に相当します。
2つのファインダー
しかし、広角から望遠までをひとつのファインダーで使用できるようにした場合、大きな問題がありました。
それが、広角に合わせた広い範囲が見えるファインダーを作ると、望遠時のファインダー枠がとても小さくなってしまうこと。
また、レンジファインダーの有効基線長も短くなってしまい、測距精度が悪化してしまいます。
この問題について、日本光学はアクロバティック、かつ正攻法で解決しました。
それが、広角側と望遠側のファインダーを分け、2つのファインダーを搭載するということ。
具体的には、28mmと35mmのファインダーと、50mm以上のファインダーが分けられています。
連動距離計については50mm以上のファインダーに搭載し、広角撮影時は、ファインダーを覗き直して測距する形式としています。
広角レンズは被写界深度が深く、ある程度は目測でもピントがずれないため、このような方式でも問題はないと判断したのでしょう。
ユニバーサルファインダーのための機能的工業デザイン
このユニバーサルファインダーに合わせて、ニコンSPにはほかの日本光学製レンジファインダーとは異なるボディデザインが与えられました。
それが、ファインダーと採光窓をすべて覆うような大きな窓。
他のどんなレンジファインダーカメラとも似ていない、ニコンSPを特徴づけるデザインです。
それまでの国産カメラのデザインは、多かれ少なかれ、ドイツ製のカメラに範を取った、いわば模倣と呼べるものでした。
ニコンSPでは、ついにドイツの影響下から脱しはじめ、国産カメラのデザインは新たな段階に入ったといえるのではないでしょうか。
国産カメラの工業デザインは、このニコンSPに次いで1959年に発売されることになる、一眼レフ、ニコンFでさらに新境地を迎えることになります。
Nikon SP(ニコンSP)の操作系
それでは、ファインダー以外の操作系にはどのような特徴があるのでしょうか。
ニコンSPの操作系は、日本光学のレンジファインダーカメラに共通する特徴を受け継いだもの。
特色としては、ボディ正面左上にあるダイヤルを回してフォーカシングする機構が挙げられるでしょう。
また、前機種ニコンS2では高速側と低速側が分かれていたシャッターダイヤルは、モダンな一軸不回転式ダイヤルになりました。
レンズマウントはニコンSマウント。
もちろん、「マグナム・フォト」のカメラマンが息を呑んだという高性能なニッコールレンズが使用可能です。
ニコンSマウントのニッコールは、他社製カメラとの互換性がないこともあり、レンジファインダー用レンズとしては中古が廉価。
SPはボディこそ中古がそれなりの値段ですが、レンズについては心配いりません。
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ニコンSPとライカM3
Nikon SP(ニコンSP)の誕生に非常に大きな影響を与えたカメラ。
それがライカM3です。
どちらも中古で非常に人気の高いカメラですが、この2つのフラッグシップには、どんな逸話があるのでしょうか?
ライカM3に追いつけ、追い越せ
ニコンSPは、名実ともに、日本光学がフラッグシップとして開発したレンジファインダーカメラ。
単に日本光学のフラッグシップというだけではありません。
ニコンSPは、すべての国産カメラのフラッグシップ。
そして、世界一のカメラを目指して開発されたカメラなのです。
日本光学には、目指す相手がいました。
それが、今も、昔もすべてのレンジファインダーの王者であるライカ。
戦後、35mmレンジファインダーカメラを製造する国内メーカーは、みな、ライカをお手本にしていました。
そして、いつかはライカを追い越すことを目標としていたのです。
1950年代初頭の時点で仮想敵として設定されていたのは、いわゆるバルナックライカ。
当時、ニッカやレオタックスといった国産コピーライカが人気を集め、ニコンやキヤノンといったメーカーも新機軸を取り入れていたことからもわかるように、国産レンジファインダーは、バルナックライカには追いつきつつあったといえるでしょう。
国産ライカコピーの例:レオタックスK
しかし、「あの」カメラの登場によって、日本製レンジファインダーカメラは、再び一気に突き放されることとなったのです。
そのカメラとはライカM3。
バルナックライカとはまったく異なる、異次元のカメラの登場です。
当時ニコンは、「ついにライカを追い越すことができる」とばかりに、ニコンS2の発売を控えていました。
ところが、1954年のフォトキナにおけるライカM3の発表を見て、急遽発売を延期。
レバー巻き上げをはじめとする改良で、ライカに追随しようと試みました。
しかし、あくまでも小手先の対応にすぎず、ニコンS2は、ライカM3に比べれば完成度が大きく劣ったカメラでしかなかったのです。
ライカM3をスペックで追い越す
ライカM3の発売から3年経った1957年。
ニコンは満を持して、「ライカM3に対抗できるカメラ」を送り出しました。
それが、このニコンSPだったのです。
ニコンSPがライカM3よりも勝っていたポイントは、なんといってもファインダー。
50mmレンズ以上にしかファインダーが対応しないライカM3に対して、ニコンSPのファインダーは、1台のカメラだけで広角レンズにも対応するもの。
ライカM3のように、「眼鏡」や外付けファインダーを用いる必要もありません。
ニコンSPの特色であるユニバーサルファインダーによって、スペックの上では、たしかに、ライカM3を上回ることに成功したのです。
ライカへの本当の勝利
さて、このニコンSPが送り出された1950年代後半。
カメラの世界では大変革が起きようとしていました。
それが、レンジファインダーカメラから、一眼レフカメラへの大移行。
「高級カメラといえばレンジファインダー」だった時代は、終わりを告げようとしていました。
カメラ界の一大転換。
その当事者となったのも、ニコンSPを作ったのと同じ日本光学でした。
1959年、Nikon F(ニコンF)が発売。
「プロの使用に耐える」堅牢かつ操作性良好な一眼レフカメラの登場は、一眼レフへの移行を決定づける出来事でした。
そして、このニコンFの発売により、日本光学は世界のカメラの王者の座を手にすることになるのです。
日本製カメラがライカに勝った瞬間でした。
ニコンFとニコンSP
ニコンSPが発売された1957年は、国産高級レンジファインダーの発売としてはぎりぎりの年代。
同時期に開発されていた「ミノルタ・スカイ」や「レオタックスG」といった、ライカM3に対抗しようとしたレンジファインダーには、開発中止となったものも存在しています。
国産レンジファインダーカメラの技術が爛熟し、そして、フラッグシップとしての開発資産を存分につぎ込むことができたからこそ生まれたのが、ニコンSPというカメラだったのでしょう。
とはいえ、レンジファインダーの時代に引導を渡した、ニコンFもまた、ニコンSPがなければ存在しないカメラでした。
ニコンFの設計は、多くの部分でニコンSPをベースとしています。
例を挙げれば、ニコンFの特徴と言われる、ボディ後部にあるシャッターボタンも、ニコンSPとまったく同様の箇所に位置しているのです。
レンジファインダーの時代から一眼レフの時代へ。
ニコンSPは、単なる高級レンジファインダーであることを超えて、両者の橋渡しをしたカメラだということができるのではないでしょうか。
普及機 Nikon S3(ニコンS3)
↑Nikon S3
ニコンSPのファインダーを簡略化した機種として、Nikon S3(ニコンS3)というカメラも存在します。
こちらは、SPほどにファインダーが複雑ではないため、ファインダー視野のヌケの良さが魅力です。
こちらにも「省略の美」という魅力があり、けっして単なる廉価版ではありません。
ニコンSP 中古購入のポイント
それでは、ニコンSPを中古購入するときにはどんなことに気をつければよいのでしょうか?
シャッター動作やファインダーをチェック
中古購入の際、とくに念入りにチェックしたいのが、シャッターとファインダー。
シャッターはスローが効いているか、シャッター幕は劣化していないか、あらかじめチェックするようにしましょう。
とくに、中古レンジファインダー特有のシャッター幕ピンホールは、仮に修理しようとすると修理代金がかさむため、念入りに確認するのをおすすめします。
ファインダーも重要。
二重像にズレはないか、クモリやカビがないかなど、中古購入時に確認しましょう。
とくにニコンSPはファインダーが手間のかかっている構造になっているため、あらかじめ状態のよい中古を購入することで、あとになって修理代金がかかってしまう、といったことを防げますよ。
ニコンSP 復刻版(2005年)
ニコンSPには、1957年の発売当時に製造されたものと、2005年に2500台限定で復刻されたものがあります。
中古購入する際に悩むのが、どちらを選ぶのかということ。
一般に中古の販売価格としては、復刻版よりも、当時のもののほうが安価だといえるでしょう。
当時物ニコンSPの中古は10万円台後半くらいで手に入りますが、復刻版は30万円以上と、価格差はかなりのものになります。
ただし2005年の復刻版は、製造年が新しいことと、コレクターズアイテムであることから状態がよいものが多いともいえます。
もうひとついえば、復刻版の付属レンズはコーティングがマルチコートとなっているため、単に描写だけを比較すれば、当時物のモノコート中古レンズよりもよいことは間違いありません。
ただし、当時の描写の味を楽しむという点では、50年代製の中古レンズにも一定の価値があります。
また、2005年の復刻版はブラックボディのみとなるため、シルバーボディが欲しいという方は、現役で販売されていた当時のものを中古で入手することになります。
国産レンジファインダーカメラの最高峰を味わおう
このように、Nikon SP(ニコンSP)は国産レンジファインダーのなかでも唯一無二の至高のカメラ。
ライカに追いつき追い越そうという技術者の情熱を、存分に感じることができますよ。
国産カメラの至宝を中古で手に入れて、ぜひあなたの手で操ってみませんか?
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価格と性能のバランスが取れた名機です!
どこでも持ち歩ける相棒です。
更新履歴
2022年8月3日
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